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政府も注目する次世代エネルギー  核融合の仕組みと可能性 【第2回】国内研究最前線 JT-60SAとLHDが描く日本の核融合ロードマップ

一般社団法人エネルギー情報センター

主任研究員 森正旭

政府も注目する次世代エネルギー  核融合の仕組みと可能性 【第2回】国内研究最前線 JT-60SAとLHDが描く日本の核融合ロードマップの写真

地上に“小さな太陽”をつくるという挑戦が、いま日本の研究現場で確実に動き始めています。 第1回では、核融合がどのようにエネルギーを生み出すのか、その基本原理や世界的な動向について整理しました。今回はその続編として、日本が持つ二つの主要研究拠点、「JT-60SA(大規模トカマク型装置)」と「LHD(ヘリカル方式の大型装置)」に焦点を当て、国内で進む最前線の取り組みを詳しく解説します。 どちらも世界トップクラスの規模と技術を誇り、2030年代の発電実証を目指す日本の核融合開発に欠かせない“橋渡し役”として国際的にも注目されています。

1.日本の核融合研究が果たす役割

日本は長年にわたり、欧州や米国と並ぶ核融合研究の中核国として位置づけられてきました。
エネルギー資源が限られる日本にとって、核融合は「自国で安定した電力を生み出す可能性を持つ技術」であり、エネルギー安全保障と脱炭素化の双方に寄与する戦略的テーマです。

政府は2025年6月、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、研究開発にとどまらず、実証や産業化までを一体で支援する新たな国家方針を示しました。これにより、日本の核融合開発は、これまでの“基礎研究の段階”から、実際の発電や商用化を視野に入れた“次のフェーズ”へと移行しつつあります。

さらに、国の研究機関だけでなく、大学、企業、自治体を巻き込んだ“官民一体の推進体制”も拡大しています。多様な主体が参画することで研究領域が広がり、国内の核融合技術の裾野も着実に厚みを増しています。

2.JT-60SA ― 世界最大級の超伝導トカマク装置

茨城県那珂市にある「JT-60SA(ジェイティーろくまる・スーパーアドバンスト)」は、量子科学技術研究開発機構(QST)と欧州連合(EU)が共同で整備を進めている日本有数の実験装置です。

第1回でも触れたように、トカマク方式はドーナツ型の真空容器に磁場を形成し、超高温のプラズマを閉じ込める方式で、現在世界で最も研究が進んでいる核融合アプローチです。
このセクションでは、JT-60SAの研究成果・技術的特徴・ITERとの連携という三つの視点から、その役割を整理します。

(1)初プラズマ成功と研究の意義

2023年10月、JT-60SAは初めてプラズマの生成に成功しました。
プラズマとは、気体が極限まで加熱され、電子と原子核が分離した“超高温の状態”のことであり、核融合反応の前提となる重要な条件です。

この成果は、装置全体が設計通りに機能し、核融合研究の次段階へ進むための大きな節目となりました。2024年以降は加熱試験や電流駆動試験が段階的に進み、2025年にはEUROfusionとの共同研究のもと、ITERの運転条件を事前に検証するフェーズへと移行しています。世界中が注目するITER(国際熱核融合実験炉)の運転リスクを先行して評価し、必要な調整を行う役割を担うことは、日本の技術に対する国際的な信頼の表れです。

さらに、ITERの建設スケジュールが国際的に議論されるなかで、JT-60SAが先行的に運転条件を検証できる意義は一層高まっており、国際プロジェクトにおける日本の貢献度を示す要素となっています。

図1 JT-60SA(ジェイティーろくまる・スーパーアドバンスト)
出典:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)

(2)装置の特徴と目的

JT-60SAの内部には巨大なドーナツ型の真空容器が広がり、その周囲にはマイナス269℃の極低温で動作する超伝導コイルが配置されています。これにより、太陽中心と同等の1億度級の環境を長時間維持することが可能になります。

研究の中心テーマは、プラズマを安定に制御する技術の確立と、長時間運転の実現に必要な条件の解明です。さらに近年では、AIを活用したリアルタイム制御の研究や、中性子に強い材料の開発など、実用化に直結する応用研究も広がっています。

これらの取り組みを通じてJT-60SAは、現在稼働中の装置としては世界最大の超伝導トカマクとして、日本の核融合研究を国際的に牽引する存在となっています。

(3)産業界との連携

JT-60SAの建設には、国内企業だけでも70社以上が関わり、高度な製造技術が惜しみなく投入されました。日立製作所と三菱電機は、極低温環境でも安定して動作する超伝導コイルの製造を担当し、東芝エネルギーシステムズは直径十数メートルにおよぶ巨大な真空容器を高精度の溶接技術で仕上げました。

いずれも、数カ月かかる極低温の冷却に耐える溶接が、数ミリ単位の誤差すら許されない極限の精度で求められ、日本の「ものづくり」の真価が問われました。この困難な課題を乗り越えた経験と技術が、将来の民間核融合炉の開発に直接つながる貴重な資産であり、日本の核融合産業の競争力を高める重要な基盤となっています。

3.LHD ― 世界最大のヘリカル装置が示す長時間運転の可能性

岐阜県土岐市の核融合科学研究所(NIFS)が運用する「LHD(Large Helical Device)」は、日本が世界に誇るヘリカル方式の大型装置です。第1回でも触れたように、ヘリカル方式は磁場そのものをねじれたコイルで形成し、装置に大電流を流さずにプラズマを閉じ込める構造が特徴で、長時間運転に適しています。
ここでは、高温プラズマ実験、材料・AI制御研究、民間への技術移転という三つの視点からLHDの役割を見ていきます。

図2 LHD(Large Helical Device)
出典:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

(1)1億度を超える高温プラズマの実現

LHDでは電子温度が1億度を超える高温プラズマの生成に成功しており、ヘリカル方式が持つ「構造的にプラズマが安定しやすい」という利点を活かし、高温を長時間維持できた点が国際的にも注目されています。

長年にわたり蓄積されたLHDのデータは国内外の研究者に公開され、比較研究、材料評価、運転シミュレーションなど多方面で活用されています。日本の研究成果が世界の核融合研究の“共通基盤”として機能していることは、LHDが持つ大きな意義のひとつです。

(2)材料・AI制御の最前線

核融合反応では高速の中性子が大量に発生し、装置内部の壁にダメージを与えます。LHDでは、この中性子に耐える新材料の評価や構造設計の研究が継続して進められており、将来の実用炉に不可欠となる“壊れにくい装置づくり”の基盤が整えられています。

2024年には、AIを活用したプラズマ制御で成果が見られ、複雑なプラズマの乱れを瞬時に検知して運転条件を自動調整する技術が高く評価されました。2025年にはこうしたAI制御の高度化に加え、新材料の実験や中性子損傷の評価も強化されており、実用炉が直面する課題の解決に向けた研究が加速しています。

AIによるリアルタイム制御の進展は、安定運転の鍵を握る重要技術として期待されており、長時間運転を求められる将来の核融合炉にとって不可欠な役割を担うと見込まれています。

(3)民間への技術移転

LHDで培われた技術は、大学や研究機関にとどまらず、民間企業でも活用されています。代表例が日本のスタートアップ・ヘリカルフュージョン株式会社です。同社はLHDで蓄積された磁場設計データや材料データを基に原型炉の設計を進めており、「電流を流さず磁場だけでプラズマを閉じ込める」というヘリカル方式の利点を、民間炉開発に取り入れています。

さらに核融合科学研究所と企業との共同研究も進み、コイル技術や真空設備など周辺技術のノウハウが段階的に民間へ移転されつつあります。2030年代の発電実証を目指す企業プロジェクトも動き始め、日本の研究成果が産業界へ橋渡しされる流れは一段と広がっています。

4.産学官の連携が生み出す「核融合エコシステム」

日本ではいま、研究機関・大学・企業・行政が相互に協力し、核融合を“研究テーマ”から“産業領域”へと押し上げる体制づくりが加速しています。

その象徴が、2024年3月に発足したフュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)です。電力会社や重工メーカー、素材メーカー、スタートアップなど100社以上が参加し、装置部品の国際標準化、人材育成、規制設計といった実用化に欠かせない課題に共同で取り組んでいます。

政府の支援も強まり、NEDO・文部科学省などが推進するプログラムでは、民間企業が試作炉技術を開発したり、研究機関と共同で材料や部材の検証を行うプロジェクトが進み、研究と産業の境界を越えた取り組みが加速しています。京都フュージョニアリング社はその代表例で、JT-60SAやITERに関わる冷却・加熱システムの高度化を進め、海外研究機関への機器提供も行うなど、国際的な存在感を高めています。

こうした動きにより、研究所で培われた知見が企業に移転され、その企業の技術が研究現場へと戻ってくる“循環型の発展モデル”が生まれ、核融合産業の土台が着実に固まりつつあります。

まとめ

JT-60SAとLHDは、日本の核融合研究を支える二つの柱として、それぞれ異なる強みを発揮しながら、2030年代の実証炉(DEMO炉)構想に向けた研究を着実に進めています。トカマク方式が高温プラズマの生成に強みを持ち、ヘリカル方式が長時間運転の安定性に優れることで、両者が補完しあいながら技術開発を進められる点は、日本の大きな強みです。

今後は、放射線に強い材料の開発や、AIによる自動制御技術の高度化、そして政府支援や民間投資の拡大といった動きが加速することで、核融合は「研究」から「産業」へと確実にステージを進めていきます。日本のエネルギー安全保障や脱炭素化に寄与しうる現実的かつ有望な選択肢として、その存在感はますます大きくなっていきます。

次回の第3回では、研究を支える民間企業やスタートアップの最新動向に焦点を移し、国内外で加速する核融合ビジネスの現在地を詳しく解説します。

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主任研究員 森正旭

上智大学地球環境学研究科にて再エネ・電力について専攻、卒業後はRAUL株式会社に入社。エネルギーに係るITを中心としたコンサルティング業務に従事する。その後、エネルギー情報センター/主任研究員を兼任。情報発信のほか、エネルギー会社への事業サポート、また法人向けを中心としたエネルギー調達コスト削減・脱炭素化(RE100・CDP等)の支援業務を行う。メディア関連では、低圧向け「電気プラン乗換.com」の立ち上げ・運営のほか、新電力ネットのコンテンツ管理を兼務。

企業・団体名 一般社団法人エネルギー情報センター
所在地 〒160-0022
東京都新宿区新宿2丁目9−22 多摩川新宿ビル3F
電話番号 03-6411-0859
会社HP http://eic-jp.org/
サービス・メディア等 https://price-energy.com/

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